【2026年現地取材】「うさぎ の 島」大久野島が挑む静かな革命 オーバーツーリズムの克服と野生の未来
うさぎ の 島として世界的な知名度を誇る広島県竹原市の大久野島。瀬戸内海に浮かぶ周囲約4.3キロメートルの小さな離島は、2026年の今、大きな転換期を迎えている。かつてSNSの写真を発端に爆発的な観光ブームに沸き、過剰な混雑やマナー問題に揺れたこの場所で、今、持続可能な観光と生態系保護を両立させる新たな試みが着実に成果を上げつつある。
朝日が瀬戸内海の水面を照らす早朝、忠海港から出る始発のフェリーには静かな熱気が満ちていた。乗客たちの目的は単なる癒やしにとどまらない。かつての喧騒が落ち着き、旅人がうさぎ の 島の静寂と豊かな自然、そして歴史の遺構にじっくりと向き合える環境が整いつつあるからだ。
1. 餌やりルールの厳格化とスマート給餌の実験

大久野島で長年議論されてきたのが、観光客によるキャベツや野草の無秩序な持ち込みと投棄だ。過剰な給餌はウサギの繁殖数を跳ね上げさせる一方で、栄養偏重による健康被害や残飯を狙うカラス、イノシシの増加を招いていた。
2026年に入り、竹原市と環境省は共同でデジタルセンサーを活用した生態モニタリングシステムを本格稼働させた。島内各所に配置されたAIカメラがウサギの密度と健康状態をリアルタイムで解析。観光客向けには専用アプリを通じ、その日に適した餌の量や適切なエリアが通知される仕組みだ。「持ち込み餌の制限には当初懸念の声もあったが、来島者の意識は予想以上に高い」と地元ボランティア団体は手応えを語る。
2. 適正な個体数への回帰が生んだ「野生の輝き」

一時期は1000羽を超えたとされる島内のウサギだが、現在の推定生息数は400羽から500羽前後で安定している。一見すると減少したように思えるが、専門家はこの数値こそが島の生態系容量(キャパシティ)に適した本来のバランスだと指摘する。
人工的な大量給餌に依存しなくなったことで、ウサギたちが自力で草を食み、地形を利用して巣穴を掘る本来の行動様式を取り戻した。皮膚病や怪我を負った個体の割合も劇的に低下している。毛並みの艶を取り戻したウサギたちが力強く跳ね回る姿は、観光客に「ペットとのふれ合い」とは異なる、野生動物への敬意を思い起こさせている。
3. ダークツーリズムが投じるもう一つの問い

大久野島を語る上で避けて通れないのが、太平洋戦争中に「地図から消された島」として毒ガス兵器が製造されていた歴史だ。ウサギの可愛らしさばかりが注目されがちだった数年前までとは異なり、近年の見学ツアーでは歴史的遺構の解説を求める参加者が増えている。
廃墟となった発電場跡や貯蔵庫の壁面に残る傷跡は、かつての凄惨な過去を無言で伝える。平和学習で訪れた若者グループが、ウサギと触れ合ったすぐ後に毒ガス資料館の展示に見入る姿は日常の光景となった。癒やしのシンボルであるウサギと、戦争の陰影という対極的なふたつの要素が、この島ならではの深いトラベル体験を形成している。
4. マイクロモビリティが変える島内巡回と滞在スタイル
周囲4キロ余りの島内道路では、歩行者の安全確保と騒音防止を目的として、電動キックボードや小型電動カートなどの次世代モビリティが限定導入された。これまで歩行に不安のあった高齢者やファミリー層も、無理なく島を周回できるようになった。
静音性の高い電動モビリティは、路上に飛び出してくるウサギへの接触事故を大幅に減少させている。また、スピードが出ないようGPSで自動制御された乗り物は、ゆったりとしたペースで景色を楽しむ滞在スタイルを後押しする。島内の休暇村宿泊者からは「波の音を楽しみながら、安全に散策できる」と好評を博している。
5. 地域経済と分散型観光が導く新たなゴールデンルート
かつては大久野島への日帰り客が忠海港周辺で混雑を引き起こし、周辺地域への経済効果が限定的である点が課題とされていた。現在、竹原市の歴史的街並み「竹原町並み保存地区」や近隣の離島を連携させた回遊型観光ルートが機能し始めている。
観光客が島だけに集中するのを防ぐため、船の運航ダイヤの最適化やデジタルチケットによる入場制限が施された。結果として、観光客は竹原市内の老舗酒蔵や古民家ホテルに滞在し、瀬戸内の食と酒を味わう時間を楽しむようになった。点から面への観光シフトが、地域全体に安定した経済波及効果をもたらしている。
6. 次世代へ繋ぐ「共生」のメッセージ
大久野島が歩んできた道のりは、世界各地の観光地が直面するオーバーツーリズムへの明確な回答の一つと言えるだろう。自然環境を切り売りする消費型の観光から、地域の生態系と歴史的遺産を守り育てる参加型の観光へ。
夕暮れ時、瀬戸内海に沈む夕日を背景に、ウサギたちが静かに草を食む様子を遠くから見守る旅行者たちの表情には、確かな満足感が浮かんでいた。人間のエゴと自然の脆さが交錯したこの島は今、動物と人間が適切な距離感で共に生きるための新しいモデルケースとして、静かに未来へと歩みを進めている。 (出典: うさぎ の 島(Yahoo!ニュース))